H研 夏の学校2006
 
日時・場所 講義日程 夏の想い出
 

時間割 / Time Table

時\日 9/4(月) 9/5(火) 9/6(水)
7:00〜 往路 朝食 朝食
御岳登山
(7:45出発)
 
9:30〜 [野中](120分)
12:00〜 昼食
(木曽福島駅周辺)
昼食 昼食(山頂にて)
14:00〜 [藤山](90分)
休憩(30分)
[古橋](90分)
[吉元](90分)
休憩(30分)
[根本](90分)
復路
(15:00発)
18:00〜 夕食 夕食
20:00〜 [熊谷](30分) [原田](90分)
[ ]内は講演者(敬称略)

 

講演者 / Speakers

藤山 和彦 氏 (H研 D3)
Toward Higgs Mass Prediction on the Renormalized Trajectory [pdf]

注目しているスケールによって物理が変わってくるのは、物理学の常識である。 各エネルギースケール毎に、有限個のパラメータで記述される有効理論が厳然 として存在するのである。それは、よりミクロなスケールを記述する有効理論 によって、包含されてしまうとはいえ、依然として我々にとって有益な理論で ある事に変わりはない。こういう必ずしも究極的な理論でないものについて、 繰り込み可能性を追求する事にどれほどの意味があるのだろうか。局所場の理論 における繰り込みとは、紫外発散の消去であると習うが、あるスケールを記述 しているにすぎない理論が何故スケール無限大と格闘しなければならないか、 どうしても不思議な気がする。摂動論的な計算の範囲内では、素朴な量子補正 の中に紫外発散の問題が生じるため、繰り込みを単なる計算処方の問題として 捉えてしまう事になりやすい。場の理論を構成的に定義する立場では、必ず まずカットオフが登場し、それを無限大の極限にもっていった時に、有限個の パラメータで理論が制御されているかどうかが重要となる。これは、超ミクロな 世界のゆらぎが低エネルギーの物理に大きく影響を与えないための保証をとる 作業だと思えばよい。今考えている理論が、低エネルギーでよく知られている パラメータだけで制御されていないとすれば、それは有効理論として機能して いないことを白状しているようなものである。
このように、各階層毎に、連続極限が保証されるユニヴァーサリティクラスが あるのであれば、人類はいきなり究極理論を見つける必要はなく、低エネルギー スケールから着実に一歩一歩、物理を築き上げていく事が出来るのである。 ところが、実際にはGUTスケールやプランクスケールを視野に入れながら、 電弱対称性の自発的破れを議論している事が多い。標準模型の不備を克服しよう として提案されたエネルギースケールであるとはいえ、実験的に検証するには 甚だ不都合な話が百花繚乱であり、部外者は口を噤んでいるのが賢明なのかも しれない。一方、強結合理論を標榜し、紫外カットオフに大きく依存した模型で、 電弱スケールを議論する場合もある。とにかく現実の質量を再現する模型を 見つけてしまおうという戦略がうまくいけば、それはそれで素晴らしい事には 違いない。とはいえ、その次に待っているのは、強結合理論を再現する基本理論の 考察であり、話がどんどん高エネルギー化していくのは避けられない。という 訳で、逆説的ではあるが、何としても話を電弱スケールに限定したければ、 自明でない連続極限がとれる理論を予め用意しておくべきなのである。
カットオフに依存していても、予言にある種の安定性がある場合もある。トップ 凝縮模型はその好例であり、湯川結合定数等の赤外強収束構造がその原因である。 しかし、厳密にトップの質量を再現するには、カットオフをチューニング パラメータとして取り扱わざるを得ず、電弱スケールの物理を記述するのに、 またもやプランクスケールが登場してくるのである。トップ凝縮模型には、恐らく 何らかの真実が含まれていると私は信じているが、カットオフを十分低くするか、 あるいはカットオフに依らない繰り込み可能な理論にするか、いずれかの対策が 必要だと感じる。歴史を振り返ると、トップ凝縮模型の誕生から二年後には、 ゲージ理論を含んだNJL模型に対する非摂動的繰り込み可能性の端緒(近藤、 首藤、山脇)が見出されている事が分かる。現在では、ゲージ理論を含んだ NJL模型に、自明でない連続極限が存在するのは間違いないと目されているが、 繰り込み可能性の研究がどのように電弱スケールの現象論と関わっていくべきか について、明確なメッセージを持っていなかったため、この方面の研究は、 素粒子論の裏街道的な立場に甘んじている。
私の試みは、理論のカイラル対称性を$SU(2)_{L}\times SU(2)_{R}$に拡張した時に、 NJL模型の繰り込み可能性の話がどうなってしまうのかを吟味した事にある。 具体的にどういう事をやったかを書くのは面倒臭いので省略するが、依然として 近藤-首藤-山脇条件が、連続極限をとるための必要条件である事が示されるであろう。 MSSMのヒッグスセクターの特徴は、ヒッグスの自己結合定数がゲージ結合定数 で書かれているため、予言能力が高いという事にあった。繰り込まれた理論では、 それと同じ状況が生じるため、ヒッグスの質量に対する予言能力は高い。


古橋 佑介 氏 (H研 D1)
格子ゲージ理論入門 [ppt]

現在素粒子の世界は場の理論を基にした「標準模型」と呼ばれるゲージ理論によって記述され、高エネルギー加速器精密実験から得られる散乱断面積や異常磁気能率などの実験結果と整合性の良い値を導き出すことが可能となっている。 しかし一方でこの理論は摂動論に依っているため強結合理論を単純に計算することができず、なんらかの仮定・近似のもとに有効理論を構成し計算する手法が取られている。
これに対して1970年代には非摂動論的に場の理論を数学的厳密性を持つ形で構成することがなされた。これが格子ゲージ理論である。この理論は時空を離散的にみることで有限自由度での場の理論を記述し、これにより量子色力学(QCD)などの強結合理論を第一原理的に計算することを可能にした。 特に現象論的には強い相互作用におけるクォークの閉じ込めやハドロン有効質量などの非摂動効果を数値計算を用いて検証し、実験結果と比較対照することが出来るようになってきている。
今回のトークではこの格子ゲージ理論についてできるだけ簡単にレビューする。


氏 (H研 M1)
BCS理論のレビュー

超伝導の微視的理論は、1957年にBCSによって与えられた。その要となるのは対凝縮という概念である。今回の発表では、電子がペ アを作るということの可能性を示したCooperの理論を紹介した上で、BCS変分関数によって確かにBCSハミルトニアンが最小化される ことを簡単に見る。
次にこのBCS理論に平均場近似を用い、Bgoliugov 変換を施す。ここから超伝導を特徴付けるMeissner効果と、物質によらない普遍定数であるΔ/kT=1.77を導き出す。


野中 千穂 氏 (H研 助手)
Hydrodynamical evolution near the QCD critical point [pdf]

現在、クォーク・グルーオン プラズマの詳細な研究を目指し、 ブルックヘブン国立研究所において、Relativistic Heavy Ion Collider (RHIC) が稼働している。相対論的流体模型は、RHIC の実験結果、 ハドロン分布、フローといったデータの現象論的理解において大きな成功を おさめている。一方、格子QCDによる計算、有効理論において QCD相図上でQCD critical point (相境界上で相転移がクロスオーバーから 一次相転移と変化する点)の存在を示す数多くの研究結果が存在する。 しかしながら、QCD critical point をきちんと考慮に入れた現象論的 解析はまだなされていない。
ここで我々はQCD critical point を含む状態方程式を普遍性仮説 (Universality Hypothesis) をもとに構築した。QCD相図上で 相対論的流体模型の時空発展に沿った温度、化学ポテンシャルの変化を 調べると、QCD critical point のまわりに、温度・化学ポテンシャル変化の 軌跡が引きつけられることを見いだした。
我々は1+1 次元の相対論的流体模型を用いて、QCD critical point の 存在が物理観測量、たとえば、相関長、ゆらぎ、化学フリーズアウト、 サーマルフリーズアウトにどのような影響を与えるのか議論した。


吉元 俊二 氏 (H研 D2)
Collective Fermionic Excitation [ppt]

現在稼働中のRHICの結果は、相転移温度近傍は強結合であることを強く示唆している。このことは、相転移温度より高温では、これまで考えられていたようなクォークとグルーオンがほとんど自由粒子のように振る舞っているガス状のプラズマ相ではなく、もっと豊富な相構造が広がっている可能性を期待させる。

有限温度QED・QCDではフェルミオンは熱浴との相互作用により、熱的に質量を獲得することが知られている。しかし、この具体的計算は高温・弱結合極限において正当化される近似を用いてなされている。強結合であると考えられる相転移近傍におけるクォークのスペクトルを調べ、弱結合から強結合へその性質がどのように変化するかを見ることは、クォークの熱浴中における粒子的描像が弱結合から強結合へどのように変化を与えられるべきかをみることとつながり大変興味深いことである。

今回は、フェルミオンのcollective excitationについてレビューをし、非摂動的手法であるSchwinger-Dyson方程式による結果を示す。


根本 幸雄 氏 (H研 COE研究員)
Kadanoff-Baym方程式 [ppt]

40年以上前に立てられたこの方程式は、物性、素粒子を問わず現在でも動的過 程をはじめ、様々なかたちで用いられている。例えば、素 粒子論の分野では高温ゲージ理論の運動論的アプローチの一つとして、Wong 方程式とともに理論の出発点として使われている。また、この 方程式を数値的に解くことによって、ボルツマン方程式には含まれない記憶 効果などが取り入れられ、最近では相対論的多体系の熱平衡化の研究にも用 いられている。ここでは、この方程式の簡単な紹介と、上記二つの応用例に 関して簡単にレビューする。


原田 正康 氏 (H研 教授)
対称性の自発的破れと有効理論:カイラル摂動論入門の準備のために [ppt]

大局的連続対称性が自発的に破れると、質量のない 南部-ゴールドストーン粒子が現れます。
本講演では、まず南部-ゴールドストーン粒子のみを含む 低エネルギー有効理論の構成方法を紹介します。 そして、強い相互作用の基礎理論QCDにおける近似的 カイラル対称性とその破れを紹介し、 カイラル対称性に基きπ中間子のみを含むQCDの有効理論である 「カイラル摂動論」の構成方法を紹介します。
時間があれば、その現象論的応用も紹介します。